この記事は、上村菜穂子さん著書の「鹿の王–生き残った者–」の読書レビューです。
ファンタジーが好きな方や、共生、近年のウイルス論の視点で読んでも面白い作品です。
あらすじ
物語は、採掘坑の奴隷であったヴァンと、帝国の医師のホッサルの2つの視点から繰り広がれます。
一人目のヴァンは、かつて山岳地帯の母国のために戦った騎馬部隊「独角」でリーダーとして戦い、現在は採掘坑アファカで奴隷として働いています。ある日、山犬の集団に採掘坑が襲われ、山犬に噛まれたことで、ヴァンは、黒狼熱(犬を介した伝染病)にかかります。その後、奇跡的に九死に一生を得たヴァンは、もう一人の採掘坑の生き残りの少女ユナと、採掘坑を脱出し旅に出ます。
二人目のホッサルは、帝国の皇族で医師です。ホッサルは、ヴァンが抜け出した採掘坑を調査のため訪れます。瞬時に、死体の症状から、かつて帝国を滅亡へと追いやったといわれる、黒狼熱(犬を介した伝染病)と判断します。そして黒狼病の病の発生源の特定と、各地で山犬に噛まれ罹患した人々から治療薬の製薬に尽力していきます。
病を乗り越えた人々の体に起きた変化、また、どのようにホッサルは病を解明していくのか是非予想しながら読んでみてください。
気づき
鹿の王を読んで感じたことは、「異文化の共生」と「生物の共生」の2つです。
①異文化の共生
「戦争はなぜ消えないのか」というのは、終わりのないテーマです。人種、宗教、政治、資源など何が戦争の始まるきっかけとなるかは、定かではありません。
また、近年グローバル化、ダイバーシティも以前より浸透してきていますが、準じた伝統文化の消滅が問題となっています。
新しい考え方を取り込んでいくことは、私達の発展のためには必要不可欠ですが、難しいものです。
これらから、異文化を受け入れる「正しさ(正義)」は、境界が不明瞭であったほうがいいのではないかと思いました。
②生物の共生
昨今のコロナウイルスやインフルエンザウイルスなど、多くの人を死に貶めるウイルスが蔓延する中で、「ウイルス共生論」が説かれています。
ウイルス共生論から分かることは、人間は従来考えられてきた生態系の三角形のモデルの頂点ではなく、円のような形の循環している生物社会の一部だということを改めて感じます。
これは、生物の命には優劣はつけられないとも言えます。
よって、人類は同種族の争いだけに焦点を当てるのではなく、地球全体でどう生きていくかを考えなくてはなりません。
以上の2点から私は、
「共生=正しさを追い求め、境界を明確にしていくこと」ではなく、
「共生=他者を許容する範囲を曖昧にして広げていくこと」
だと感じました。
この記事が参考になりましたら幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。